退職後に起業を考えている方にとって、失業保険(雇用保険の基本手当)と起業準備の関係は気になるポイントです。失業保険を受給しながら起業準備をすることはできるのか、また起業した場合に活用できる「再就職手当」の仕組みについても知っておきたいところです。
この記事では、失業保険の受給中に起業する場合の影響や注意点、さらに起業時に受け取れる再就職手当の条件と金額について詳しく解説します。

失業保険を受給しながら起業準備はできる?
結論から言うと、失業保険の受給中に起業準備をすること自体は可能です。ただし、いくつかの重要なルールがあります。
失業保険は「失業状態にある人」が受給するものです。ハローワークの定義では、「就職しようとする意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、仕事に就くことができない状態」を失業としています。
起業準備の段階では、まだ事業を開始していないため「失業状態」と判断されますが、開業届を提出した時点で「就職した」とみなされるため、その日以降は失業保険の受給資格を失います。
起業準備中であっても、ハローワークの認定日に求職活動の報告が必要です。起業準備をしている事実は正直に申告しましょう。隠して受給すると不正受給として処罰の対象になります。
認定日の予定や、求職活動・起業準備で行ったことは手帳に日付つきで書き留めておくと、ハローワークで申告するときに迷わず説明できます。
起業した場合に受け取れる「再就職手当」とは
起業する方にとって見逃せないのが「再就職手当」です。再就職手当は、失業保険の受給資格がある人が早期に就職・起業した場合に支給される一時金で、起業であっても条件を満たせば受給可能です。
再就職手当の支給金額
再就職手当の金額は、基本手当の支給残日数に応じて以下のように計算されます。
- 支給残日数が所定給付日数の3分の2以上ある場合:基本手当日額 × 支給残日数 × 70%
- 支給残日数が所定給付日数の3分の1以上ある場合:基本手当日額 × 支給残日数 × 60%
つまり、早く起業するほど支給残日数が多く残り、受け取れる金額も増える仕組みです。たとえば基本手当日額が6,000円で支給残日数が90日の場合、70%支給なら378,000円の再就職手当を一括で受け取れます。

起業で再就職手当を受け取るための条件
起業して再就職手当を受け取るには、以下のすべての条件を満たす必要があります。
- 待機期間(7日間)が満了した後に起業すること
- 就職日(開業届提出日)の前日までの失業認定を受け、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あること
- 1年を超えて事業を安定的に継続できると認められること
- 過去3年以内に再就職手当または常用就職支度手当の支給を受けていないこと
- 離職前の事業主に再び雇用されたものでないこと
なお、自己都合退職で給付制限がある場合は、給付制限期間の最初の1ヶ月間はハローワークまたは職業紹介事業者の紹介による就職のみが再就職手当の対象となります。2025年4月の法改正で自己都合退職の給付制限は原則1ヶ月に短縮されたため、起業の場合はこの制限期間を過ぎてから開業届を出すのが一般的です。
- 待機7日間の後に起業すること(待機中の起業はNG)
- 支給残日数が所定給付日数の3分の1以上残っていること
- 1年を超えて安定的に継続できる事業であること
- 自己都合退職の場合は1ヶ月間の制限に注意
再就職手当を申請する手順
起業にあたって再就職手当を申請する流れは以下のとおりです。
ステップ1:ハローワークに起業の報告
起業が決まったら、開業届を出す前にハローワークの窓口で「起業する予定である」ことを報告します。この際に再就職手当の受給要件について確認しておきましょう。
ステップ2:開業届の提出
税務署に開業届を提出します。開業届の提出日が「就職日」としてハローワークに認定されます。
ステップ3:再就職手当の申請
就職日の翌日から1ヶ月以内に、ハローワークに再就職手当の支給申請書を提出します。開業届の控えなどの書類も必要になるため、事前に必要書類を確認しておきましょう(参考:厚生労働省 再就職手当のご案内)。
ステップ4:支給決定・振込
申請後、ハローワークで審査が行われます。審査には1〜2ヶ月程度かかることがあり、承認されれば指定の口座に一括で振り込まれます。
開業届の控えや受給資格者証など、申請に使う書類は1冊のファイルにまとめておくと、ハローワークと税務署の手続きが続いても慌てずに済みます。

起業が失敗した場合の救済措置
起業したものの事業がうまくいかず廃業した場合の救済措置として、失業保険の受給期間を最大3年間延長できる特例があります。
この特例は、失業保険の受給資格者が起業した後に廃業した場合、一定の条件を満たせば失業保険の受給期間を延長し、改めて基本手当を受け取ることができるという制度です。ただし、再就職手当を受け取っている場合は、その分は差し引かれます。
起業のリスクに備える意味でも、この制度の存在は覚えておくと安心です。
よくある質問Q&A
Q. 開業届を出さずに副業的に事業を始めたらどうなる?
開業届を出していなくても、実質的に事業を営んでいると判断されれば「就職した」とみなされる可能性があります。週20時間以上の事業活動を行っている場合は失業状態と認められません。ハローワークに正直に報告し、適切な対応を取ることが大切です。
Q. 再就職手当を受け取った後に廃業したら返金が必要?
再就職手当の返金は原則として求められません。ただし、はじめから短期間で廃業する予定だったなど、不正な意図があった場合は不正受給として返還を求められることがあります。
Q. フリーランスとして独立する場合も再就職手当の対象?
はい、フリーランスとして独立する場合も再就職手当の対象になります。開業届を提出し、1年を超えて安定的に事業を継続できると認められれば、会社に就職した場合と同様に手当を受け取れます(参考:freee 失業保険をもらいながら起業準備はできる?)。

起業前にやっておくべき準備
再就職手当を受給しながら起業を成功させるためには、事前準備が欠かせません。以下のポイントを押さえておきましょう。
事業計画を練る
ハローワークでは、起業が「1年を超えて安定的に継続できる事業」であるかを審査します。事業計画書をしっかり作成しておくことで、審査がスムーズに進みます。売上見込みや事業の具体的な内容を整理しておきましょう。
事業計画の立て方を一から確認したい方は、起業の準備をまとめた本を1冊手元に置いておくと、考えを整理しながら書き進められます。
開業届の提出タイミングを見極める
開業届を出すと「就職」とみなされるため、再就職手当の支給残日数に直接影響します。自己都合退職の場合は待機期間+1ヶ月の制限があるため、最低でも退職後1ヶ月と7日が経過してから開業届を提出するのが一般的です。
開業に必要な届出を確認する
税務署への開業届のほか、業種によっては各種許認可の取得が必要な場合があります。事前に必要な届出や手続きをリストアップし、漏れがないようにしておきましょう。
資金計画を立てる
再就職手当はまとまった金額を一括で受け取れますが、事業の運転資金としては十分でないこともあります。自己資金や融資の計画も含めて、少なくとも半年分の生活費と事業資金を確保しておくのが安心です。地域の創業支援センターや商工会議所の相談窓口も活用しましょう。日本政策金融公庫の融資制度も、自己資金が少ない方にとって有力な選択肢になります。
まとめ
失業保険の受給中でも起業準備は可能ですが、開業届を出した時点で受給資格を失うことを覚えておきましょう。一方で、条件を満たせば再就職手当としてまとまった金額を一括で受け取ることができます。
早期に起業するほど再就職手当の金額が大きくなるため、起業の計画がある方はタイミングを見計らって手続きを進めることが重要です。また、起業が失敗した場合の受給期間延長の特例もあるため、制度を正しく理解しておくことが安心につながります。
退職後に起業を目指す方は、ハローワークの窓口で自分の状況に合った最適な手順を相談しておくことをおすすめします。
起業準備中に知っておきたい支援制度
起業を検討している方は、再就職手当以外にも活用できる支援制度があります。たとえば、日本政策金融公庫の「新規開業資金」は、新たに事業を始める方や開業後おおむね7年以内の方を対象とした融資制度です。自己資金が少ない場合でも申し込みが可能で、起業のハードルを下げてくれます。
また、各地域の商工会議所や創業支援センターでは、無料の創業相談や起業セミナーを開催しています。事業計画書の作成サポートを受けられることもあるため、起業を考え始めた段階で一度足を運んでおくと安心です。
失業保険の基本的な受給条件については、失業保険の受給条件と申請のやり方の記事もあわせて確認してみてください。


