中小企業の退職金の現状を知ろう
中小企業の退職金は大企業と比べて低い水準にあるのが現実だ。しかし、中小企業であっても退職金制度を設けている企業は多く、勤続年数や退職理由によってはまとまった金額を受け取ることができる。
東京都産業労働局が実施している「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」は、従業員10人〜299人の都内中小企業を対象にした調査だ。この調査のモデル退職金は、学校卒業後すぐに入社し、普通の能力と成績で勤務した場合の退職金額を算出したものとなっている。

中小企業の退職金相場|勤続年数別の目安
中小企業の退職金は、勤続年数が長くなるほど増加する。ここでは勤続年数ごとのおおよその相場を紹介する。金額は業種や計算方式によって異なるため、あくまで参考値として確認してほしい。
勤続5年の退職金相場
中小企業で勤続5年の場合、退職金は約20万〜50万円程度が目安だ。勤続3年以上を支給条件としている企業が多く、5年では基本的にまとまった金額にはならない。自己都合退職の場合はさらに少なくなる。
勤続10年の退職金相場
勤続10年になると、約80万〜180万円程度が相場になる。自己都合退職と会社都合退職で金額に差が出始めるのもこの頃からだ。
勤続15年の退職金相場
勤続15年で約200万〜350万円程度が目安だ。退職金の計算方式が基本給連動型の場合、基本給の上昇に伴って退職金額も増えていく。
勤続20年の退職金相場
勤続20年では約350万〜600万円程度となる。退職所得控除の計算方法が変わる区切りの年数でもあるため、税金面でも重要なタイミングだ。
退職所得控除の仕組みや退職金にかかる税金をまとめて確認したい方は、退職金と税金を解説した本を1冊手元に置いておくのも1つの方法だ。自分の正確な金額は、会社の退職金規程や税務署で確認してほしい。
勤続25年の退職金相場
勤続25年で約500万〜900万円程度が目安になる。大企業との差が最も大きくなるのもこのあたりからだ。
勤続30年以上(定年退職)の退職金相場
定年まで勤め上げた場合の中小企業の退職金は、約800万〜1,200万円が一般的な相場だ。大企業(約1,800万〜2,500万円)と比べると約半分程度だが、老後の生活資金として重要な役割を果たす。
中小企業と大企業の定年退職金の差
- 大企業:約1,800万〜2,500万円
- 中小企業:約800万〜1,200万円
- 差額:約700万〜1,300万円程度
この差額をiDeCoやNISAなど自分での資産形成で補うことが大切だ。
中小企業で採用されている退職金制度の種類
中小企業が退職金制度を設ける場合、主に以下のような方法が使われている。
中小企業退職金共済(中退共)
中小企業退職金共済(中退共)は、国が運営する中小企業のための退職金制度だ。会社が毎月の掛金を中退共に積み立て、従業員が退職した際に中退共から直接退職金が支払われる仕組みになっている。
中退共のメリットは以下のとおりだ。
- 会社が倒産しても退職金は守られる(中退共が直接支払うため)
- 掛金は全額損金算入できる
- 新規加入や掛金を増額する場合に国から助成がある
- 転職先も中退共に加入していれば、退職金を通算できる

自社積立方式
会社が独自に退職金の原資を積み立てる方式だ。就業規則の退職金規程に計算方法が定められている。中小企業では基本給連動型や定額制が採用されていることが多い。
確定拠出年金(企業型DC)
会社が掛金を拠出し、従業員が自分で運用する制度だ。運用成績によって退職時の受取額が変わるため、退職金の額が確定しないという特徴がある。近年は中小企業でも導入が増えている。
特定退職金共済(特退共)
商工会議所や商工会が運営する退職金共済制度だ。中退共と似た仕組みだが、加入できるのは各地域の商工会議所の会員企業に限られる。
退職金がない中小企業の割合と対策
中小企業では退職金制度そのものがない企業も少なくない。厚生労働省の調査によると、従業員30人未満の企業では退職金制度がない割合が高くなる傾向にある。
退職金制度がない中小企業で働いている場合は、以下の方法で自分自身の退職後の資金を準備しておくことが大切だ。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
毎月の掛金が全額所得控除になるため、節税しながら老後資金を積み立てることができる。退職金制度がない会社の従業員は、月額23,000円まで拠出可能だ。
NISA(少額投資非課税制度)
投資で得た利益が非課税になる制度だ。長期的な資産形成に向いており、退職金の代替手段として活用できる。
財形貯蓄
会社が制度を導入していれば、給与天引きで自動的に貯蓄できる。一般財形・住宅財形・年金財形の3種類がある。
退職金制度がない会社に転職する場合は、その分を自分で補う必要がある。転職時には給与だけでなく退職金制度の有無もチェックポイントに入れておくとよい。
iDeCoやNISAを始める前に仕組みを整理しておきたい方は、図解の入門書に一度目を通しておくと、窓口やサイトの説明も理解しやすくなる。
中小企業の退職金を増やすためにできること
中小企業に勤めていても、退職金を少しでも増やすためにできることはある。
勤続年数を意識する
退職金は勤続年数が長いほど増えるのが基本だ。退職のタイミングを検討する際に、「あと数年勤めれば退職金がかなり増える」というケースもある。退職金規程の支給率表を確認して、損しないタイミングを見極めよう。
中退共の通算制度を活用する
転職先も中退共に加入している場合は、前の会社での積立分を通算することができる。転職時に中退共の通算手続きを行えば、退職金が途切れずに積み上がっていく。
確定拠出年金の運用を見直す
企業型DCやiDeCoに加入している場合は、定期的に運用商品を見直すことで受取額を改善できる可能性がある。元本確保型だけでなく、投資信託の活用も検討してみよう。

中小企業の退職金制度の動向と今後の変化
中小企業の退職金制度は、近年いくつかの変化が起きている。今後の傾向を知っておくことで、自分の退職金に関する理解が深まるだろう。
確定拠出年金(DC)への移行が進んでいる
従来型の退職一時金制度から、確定拠出年金(企業型DC)への移行が中小企業でも進んでいる。企業型DCは会社側の財務リスクが軽減されるメリットがある一方、従業員にとっては運用の知識が求められるようになる。
退職金制度を廃止する企業も出ている
経営環境の変化により、退職金制度を廃止して毎月の給与に上乗せする「前払い退職金制度」に切り替える企業もある。前払い方式では毎月の手取りが増えるメリットがあるが、自分で計画的に貯蓄しないと老後の資金が不足するリスクがある。
中退共の掛金助成制度の活用
中小企業退職金共済(中退共)では、新規加入時に国から掛金の一部が助成される制度がある。新規加入の場合、加入後4ヶ月目から1年間にわたり掛金月額の2分の1(上限5,000円)が助成される。この制度を知らない中小企業経営者も多いため、従業員側から提案してみるのも一つの方法だ。

中小企業の退職金に関するよくある質問Q&A
Q. 中小企業の定義は?
中小企業の定義は業種によって異なるが、一般的には「資本金3億円以下または従業員300人以下」(製造業の場合)が基準とされている。小売業は「資本金5,000万円以下または従業員50人以下」、サービス業は「資本金5,000万円以下または従業員100人以下」だ。
Q. 中退共の退職金はいくらもらえる?
中退共の退職金は、毎月の掛金と積立期間によって決まる。たとえば月額10,000円の掛金で20年間積み立てた場合の退職金は約260万円程度になる。詳しい金額は中退共の公式サイトでシミュレーションできる。
Q. 中小企業を退職した際、退職金はいつ支払われる?
自社積立の場合は就業規則に定められた期日(退職後1〜3ヶ月以内が多い)に支払われる。中退共の場合は、退職後に必要書類を提出してから約1ヶ月程度で振り込まれるのが一般的だ。
Q. 中小企業で10年勤めても退職金がないことはある?
退職金制度がない会社であれば、何年勤めても退職金は出ない。入社前に労働条件通知書や就業規則で退職金制度の有無を確認しておくことが大切だ。
Q. 中小企業の退職金はいつ振り込まれる?
自社積立の場合は就業規則に定められた期日に支払われる。多くの企業では「退職日から1〜3ヶ月以内」とされている。中退共の場合は、退職後に本人が中退共に請求手続きを行い、書類審査の後に約1ヶ月程度で口座に振り込まれるのが一般的だ。手続きに必要な書類は会社から受け取る「被共済者退職届」と「退職金請求書」だ。
退職金請求書や源泉徴収票など、退職金まわりの書類は1冊のファイルにまとめておくと、確定申告のときにも見返しやすい。
Q. 退職金と退職手当は同じ?
基本的に同じ意味で使われることが多い。法律上は「退職手当」「退職金」「退職一時金」など複数の呼び方があるが、いずれも退職に伴って支給される金銭を指す。公務員の場合は「退職手当」と呼ばれるのが一般的だ。
まとめ|中小企業の退職金相場を把握して将来に備えよう
- 中小企業の定年退職金は約800万〜1,200万円が目安
- 大企業と比べて約半分程度の水準だが、勤続年数次第でまとまった金額になる
- 中退共加入企業なら会社倒産時でも退職金は保護される
- 退職金制度がない場合はiDeCo・NISAで自分の備えを始める
- 退職金の詳しい金額は自社の退職金規程で確認するのが一番正確
中小企業の退職金は大企業と比べると少ないが、自分でできる資産形成を組み合わせることで老後の備えを充実させることができる。まずは自社の退職金制度を確認し、足りない部分を補う計画を立てよう。
中小企業の退職金に関する最新データは東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」で公開されている。中退共の退職金シミュレーションは中退共の公式サイトで利用できる。


