会社を辞めると、今まで当たり前のように使っていた健康保険証が使えなくなります。退職翌日から社会保険の資格を喪失するため、新しい保険への切り替え手続きが必要になります。
「退職後の保険ってどうすればいいの?」「手続きを放置したらどうなるの?」と不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、退職時の社会保険・資格喪失に関する手続きを網羅的に解説していきます。会社側の届出義務から、退職者自身がやるべきこと、退職後の保険の選び方まで、順を追って説明しますので参考にしてください。

社会保険の資格喪失とは
社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、会社に勤めている間は自動的に加入しています。退職すると、この社会保険の被保険者資格を失うことになります。これを「資格喪失」といいます。
資格喪失日はいつ?
社会保険の資格喪失日は「退職日の翌日」です。たとえば3月31日に退職した場合、資格喪失日は4月1日になります。退職日当日はまだ被保険者ですが、翌日からは保険証が使えなくなります。
間違えやすいポイントですが、「退職日=資格喪失日」ではありません。必ず翌日からの喪失となるため、退職日に病院にかかった場合はまだ保険適用されます。
資格喪失届の提出義務
資格喪失届の提出は会社側の義務です。日本年金機構の規定により、会社は退職日の翌日から5日以内に「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を年金事務所に提出しなければなりません。
会社側が行う手続きの流れ
退職時の社会保険手続きのうち、会社が行うものを整理しておきます。自分がやるべきことと区別するためにも、全体像を把握しておくと安心です。
1. 資格喪失届の作成・提出
会社は「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を作成し、管轄の年金事務所に提出します。提出期限は退職日の翌日から5日以内です。届出には以下の情報が記載されます。
- 被保険者の氏名・生年月日・マイナンバー
- 資格喪失日(退職日の翌日)
- 資格喪失の理由(退職・死亡など)
- 健康保険証の回収状況
2. 健康保険証の回収
退職者は健康保険証を会社に返却する必要があります。本人分だけでなく、扶養家族の保険証も対象です。退職代行を利用した場合は、郵送で返却するのが一般的です。
保険証を紛失している場合は、その旨を会社に伝えれば、資格喪失届に「回収不能」として届け出てもらえます。
3. 資格喪失証明書の発行
退職者が国民健康保険に加入する際に必要な「健康保険資格喪失証明書」は、会社もしくは加入していた健康保険組合から発行してもらえます。退職時に「資格喪失証明書が必要です」と伝えておくとスムーズです。

退職者自身がやるべき手続き
ここからが本題です。退職後に自分で行う必要がある手続きを見ていきましょう。
健康保険:3つの選択肢から選ぶ
退職すると会社の健康保険から外れるため、新しい健康保険に加入する手続きが必要です。選択肢は以下の3つです。
| 選択肢 | 届出先 | 期限 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 国民健康保険 | 市区町村窓口 | 14日以内 | 前年所得で保険料決定 |
| 任意継続 | 健保組合 or 年金事務所 | 20日以内 | 最大2年間、退職前保険の継続 |
| 家族の扶養に入る | 家族の勤務先 | 速やかに | 保険料0円 |
国民健康保険への加入
お住まいの市区町村の窓口で手続きします。必要なものは以下の通りです。
- 健康保険資格喪失証明書(または離職票・退職証明書)
- 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
- 印鑑(自治体による)
国民健康保険の保険料は前年の所得をもとに計算されるため、前年の収入が高かった方は保険料が高額になることがあります。会社都合退職や特定理由離職者の場合は、保険料の軽減制度(所得を100分の30として算定)が利用できますので、窓口で必ず確認しましょう。
任意継続被保険者制度
退職前の健康保険を最大2年間継続できる制度です。利用条件は、退職前に継続して2ヶ月以上の被保険者期間があることです。申請期限は退職日の翌日から20日以内と厳格に決められており、1日でも過ぎると加入できません。
保険料は在職時の約2倍になりますが(会社負担分がなくなるため)、上限額が設定されています。前年の所得が高い方は、国民健康保険より安くなるケースがあるため、両方の保険料を比較してから決めるのがベストです。
家族の扶養に入る
配偶者や親の健康保険の扶養に入れば、保険料負担はゼロです。条件は、年収見込みが130万円未満(60歳以上は180万円未満)かつ被保険者の収入の半分未満であることです。
失業保険(基本手当)を受給している期間中は、日額3,612円以上の場合、扶養に入れない可能性があります。受給額によっては国民健康保険に加入する必要がありますので、事前に確認してください。
厚生年金から国民年金への切り替え
退職すると厚生年金の資格も喪失するため、国民年金への切り替えが必要です。手続きを忘れると未加入期間が生じ、将来の年金受給額に影響します。
届出の方法
お住まいの市区町村の窓口(国民年金課)で手続きします。期限は退職日の翌日から14日以内です。
必要なものは以下の通りです。
- 年金手帳またはマイナンバーカード
- 退職日がわかる書類(離職票・資格喪失証明書など)
- 本人確認書類
保険料の免除・猶予制度
国民年金の保険料は月額17,920円(2026年度)です。退職後に収入がなく支払いが厳しい場合は、免除制度や猶予制度を活用しましょう。
- 全額免除:前年所得が一定以下の場合
- 4分の3免除:所得に応じて保険料の75%を免除
- 半額免除:所得に応じて保険料の50%を免除
- 4分の1免除:所得に応じて保険料の25%を免除
- 納付猶予:50歳未満で所得が一定以下の場合
免除期間も年金の受給資格期間に算入されますし、後から追納することも可能です。「払えないから放置する」のではなく、必ず免除申請を行いましょう。

退職日による社会保険料の違い
意外と知られていないのが、退職日が1日違うだけで社会保険料の負担が変わるという点です。
月末退職の場合
3月31日(月末)に退職した場合、資格喪失日は4月1日です。社会保険料は資格喪失日の属する月の前月分まで徴収されるルールのため、3月分の保険料がかかります。
月末以外の退職の場合
3月30日に退職した場合、資格喪失日は3月31日です。この場合、3月分の社会保険料は発生しません。つまり、月末退職と月末の1日前退職では、最後の月の保険料1ヶ月分の差が出ることになります。
月末以外に退職すると最後の月の厚生年金保険料がかからない一方で、国民年金保険料の支払いが発生します。厚生年金の方が将来の年金額が多くなるため、トータルで見ると月末退職の方が有利な場合もあります。
退職後に保険証を使ってしまった場合
資格喪失後に前の会社の保険証を使って病院にかかってしまった場合、後日、保険組合から医療費の返還請求が届きます。
たとえば3割負担で受診していた場合、残りの7割分を返還するよう求められます。その後、新しく加入した保険(国保など)に対して7割分の給付を申請すれば、最終的な自己負担は変わりません。
ただし、返還と給付申請の間に立替払いが発生するため、手持ちの現金が必要になります。退職後は速やかに保険証を返却し、新しい保険に加入してから病院にかかるようにしましょう。
よくある質問(Q&A)
Q. 退職後、新しい保険に加入するまでの間に病院にかかったらどうなりますか?
A. 国民健康保険は退職日の翌日に遡って加入扱いとなるため、手続き完了後に保険証を持って再度受診すれば、通常の自己負担額に精算されます。ただし手続き前に受診すると一旦10割負担となることがあるため、できるだけ早く加入手続きを済ませましょう。
Q. 退職後の保険料はいつから発生しますか?
A. 国民健康保険・国民年金ともに、資格喪失日(退職日の翌日)が属する月から保険料が発生します。月途中の加入でも1ヶ月分の保険料がかかります。
Q. 資格喪失証明書が届かない場合はどうすればいいですか?
A. 会社に連絡して発行を依頼しましょう。それでも届かない場合は、日本年金機構に相談すれば、年金事務所から証明書を取得できる場合があります。離職票や退職証明書でも国保の加入手続きができる自治体もあります。
Q. 国民健康保険と任意継続はどちらが安いですか?
A. 前年の所得状況によります。一般的に、前年の年収が高い方は任意継続の方が安くなることが多いです。市区町村の窓口で国保の保険料概算を確認し、任意継続の保険料と比較して決めましょう。
Q. 退職代行を使った場合、保険証はどう返却すればいいですか?
A. 郵送で返却するのが一般的です。簡易書留や特定記録郵便を使えば、届いたことを確認できるので安心です。退職代行業者が返却を代行してくれる場合もあります。
まとめ:退職後の保険手続きは早めの対応がカギ
退職時の社会保険に関する手続きの要点を振り返ります。
- 健康保険証を会社に返却する
- 資格喪失証明書を会社に依頼する
- 国保・任意継続・扶養のいずれかを選んで加入する(14〜20日以内)
- 国民年金への切り替え手続きを行う(14日以内)
- 保険料の支払いが厳しい場合は免除申請をする
退職後の保険手続きを放置すると、無保険状態や年金の未納期間が発生するリスクがあります。退職したらできるだけ早く市区町村の窓口に行き、まとめて手続きを済ませてしまうのがベストです。
不明点があれば、厚生労働省の相談窓口や、お住まいの市区町村の担当課に問い合わせてみてください。


